作り手の人柄が、味に表れる。
天正 元(1573)年創業、450年の歴史を数える『室次醬油』は、現存する日本最古の醤油蔵元。15代目となる白崎裕嗣さんは、「当蔵では福井県産の『里のほほえみ(丸大豆)』『ふくこむぎ』『海のシルクロード(天然塩)』、白山水系の地下水だけを使い、もろみを1年かけて発酵させ、天然醸造醤油を作っています。素材と天然醸造にこだわっているから、雑味の無い美味しい醤油ができるのです」と自信を覗かせます。
こちらで作られている醤油には、なんと300種類以上の栄養・旨味成分が詰まっているのだとか。それほどの成分がひしめき合っているからこそ、味・旨味・香り・コクが複雑に絡み合いつつもまろやかで後味の良い仕上がりになっているのです。「その天然醸造だからこそ起きることなんですが、当蔵の醤油はロット毎に少しずつ味が違います。仕込んだ時期や状態によって味に差が出るのは、自然にお任せしている以上避けられませんね」と白崎さんは笑います。その時々の味わいの差を楽しむこともまた、自然が生み出す本来の味をいただくということなのです。
初めて海を渡った醤油と、坂本龍馬も味わった醤油。
幕末に日本で初めて海を渡った醤油は室次の『菊醤油』だと伝えられており、世界で「ソイソース」として親しまれたといいます。この菊醤油のレシピで醸造したものが復刻版「幕末のソイソース」です。過度な主張をし過ぎず丸みのある口当たりは、様々な食材との相性も抜群です。
また福井の莨屋(たばこや)旅館を定宿としていた坂本龍馬も「幾久志やうゆ」を味わっていたと伝えられています。こちらの復刻版が醤油「龍馬」。由利公正と日本の将来について語りながら、上機嫌に「おまんらー、室次の醤油、うまくて驚いたがよー」と述べたという味わい、ぜひお試しください。
他にもノンアルコール魚醤「福むらさき」、減塩「旨醤」、甘めの「元禄」、こいくち「しにせ」など多彩なラインナップが取り揃えられていますので、お好みや用途に合わせて、自分好みの一本を見つけてください。
時代が求めるものは変わる。でも本質は変わらない。
室次では次世代の調味料も開発しています。フレンチやイタリアンのシェフから要望を受けて、まず手掛けたのは『黄金ソルト』。減塩醤油を粉末にしたもので、続く『醤油パウダー』は丸大豆醤油を粉末にしたものです。どちらもごく少量で天然醸造醤油の香りと甘味、鯖の豊かな旨味が感じられるので、ほんのひと振りで味わいを深めることができると同時に、料理の東西を問わずに使えるのが嬉しい一品です。
「パウダー状にすることで凝縮されて旨味が5倍に、塩分摂取量は液体の100分の1以下となり超減塩を実現することができたんですよ」と胸を張る一方で、「速醸醤油が流通するようになって、本物の醤油の味を知る人が減ってしまった」とも。天然醸造で添加物類を一切使っていないため、旨味成分が強すぎて「味が濃い」と言われてしまうこともあるという室次の醤油。旨味成分アミノ酸の塊である醤油本来の味を伝えるため、15代目の奮闘はまだまだ続きます。