戦国の世から続く、老舗の味。
永正17(1520)年創業、500余年の歴史を持つ味噌と麹の店『國嶋清平商店』。18代目の中林久慈さんは、「朝倉家の家臣だった國嶋家が、朝倉氏滅亡後に商人として福井城下に店を構えたことが起源です。そこから味噌や醤油の製造を始めました」と話します。幕末の頃には大きな醤油蔵を抱え、両替商も兼ねていたため、福井藩士・橋本左内や儒学者・梅田雲浜なども頻繁に訪れていたそうです。「昔は名字帯刀を許された商人だったとのことで、使用人を抱えて広範囲に配達に行っていた時代もあったようです。醤油も製造していた頃は市内中にうちの樽があったものだから、最後は回収しきれなかったと聞いています」というほど、市民の生活に溶け込んだ存在でした。
昭和20(1945)年の福井大空襲、同23(1948)年の福井大地震で店がすべて消失すると、規模を縮小させて味噌と麹などに特化。大切にその味を守り続けてきました。「現在、麹は味噌用と甘酒用等の加工品用に作っています。生麹なので消費期限は1週間程になりますが、ご自身で漬物や味噌を作る文化が根強い福井では冬場にご利用になる方が多いですね」とのこと。手間が美味しさを生むことを知っている人は、麹のおいしさにもこだわるのです。
福井の麹は、福井の食材によく馴染む。
発酵食の原点ともいえる「麹」。その製造過程はシンプルながらも繊細です。「原料は福井県産の米と塩、麹菌のみです。米を蒸してから、麹菌を入れ発酵させて板状にし麹室で約2日~2日半寝かせます。一番気を付けるのはやはり温度管理ですね。暑すぎても寒すぎてもダメ。もう麹を作り始めて長くなりますが、36度前後の良い状態になった時に仕事を始めてくれるのが今でも不思議でたまりません。ちゃんと“自分の温度”を知ってるんですね」と中林さんは笑います。
そうして丁寧に作られた麹は、甘味が強めで食材の味を良く引き出すと、今でも地元の人々をはじめとして根強い人気があります。やはり福井で作られた麹は、福井の食材の旨味を引き出すのです。
麹は古くて新しい。だから魅力を知ってほしい。
麹は日本古来からある素晴らしい食材ですが、その素晴らしさが見直されたのは近年になってからです。麹は身近なもの、もっと活用してほしいとの思いで中林さんは店舗の2階を思い切って改装。奥さんの紀子さんが「麹を使ったうまいもん教室」を始めました。「漬物や味噌作り教室をはじめとして、かぶら寿司、大根とニシンの麹漬け、味噌シフォンケーキなど、ジャンルを問わず色んなお料理をご紹介してきました。時々、公民館などで小学生向けの出張教室を行うこともありますよ」と紀子さん。今は依頼を受けて行っているとのことですので、気になる方は一度ご相談ください。
「少し前に塩麹ブームがありましたが、一過性のもので終わるのは寂しいこと。昔からあるのには理由があるのだから、確立した食文化になるように働きかけていきたいですね」と中林さん。その素晴らしさを後世に伝えていくため、今日も麹の声に耳を傾けます。