日本遺産の中、北前船主の邸宅でフレンチを。
江戸から明治にかけ、北前船の中継地として栄えた南越前町河野。2019年には、北前船寄港地・船主集落として日本遺産に認定されています。河野北前船主通りには今も北前船主の邸宅があり、日本海五大船主である右近家の館は『北前船主の館 右近家』として資料館になっています。
『畝来(うら)』は、『北前船主の館 右近家』の敷地にある隠れ家的フレンチレストラン。大正時代に右近家11代当主が建てた邸宅を復元した建物内にあり、窓から日本海や日本庭園を眺めることが。2階の個室(別途料金)からは、日本海のパノラマを一望することができます。
オーナーの宮本浩司さんは、地元河野出身。「地元の魚を食べるとき、以前は旅館や民宿などの和食しかなかったんです。それで、もともと観光協会のお客さま用にフリーで使っていた場所を活かし、フレンチのレストランをすることになりました」と開業当時を振り返ります。
四季を味わうフレンチ、郷土料理のアレンジも。
宮本さんが提供するのは、農薬を使わない自然栽培の野菜や、地元のとれたての旬の魚介などを使ったフレンチのランチ&スイーツ。自然栽培豆を使うサイフォン抽出のコーヒーも人気です。
季節ごとにメニューは変わり、春は山菜、夏はアワビ、秋は魚介、冬は越前がになど、四季折々の食材の魅力を引きだす料理が登場します。なかでも、セイコガニをまるまる一杯贅沢に使ったパスタ&リゾットは、「これを目当てに来るお客さまが9割」という冬の大人気メニューです。
ランチの前菜には、地元の郷土料理をアレンジしたものも。殻ごとのせいこがにを大根おろしと一緒に煮て味噌で味付けした家庭の味『せいげ』をフレンチ風に仕上げた一品は、素朴でありながら上品な風味。アクセントにつけられた味噌は、北前船の船内で食べていたものを地元の人が再現したもので、長旅にもつよう味が濃く、甘みがあります。また、地元で収穫した完熟梅を使った『梅のコーヒー煮』も、楽しみにしているファンが多い一品です。
豊かな自然の中、食を通して地元を盛り上げる。
宮本さんが自然栽培の食材に関心を持ったのは、『奇跡のリンゴ』で知られるリンゴ農家 木村明則さんがきっかけです。あるときテレビ番組で木村さんを観た宮本さんは、会社を辞めヨーロッパへ。フランスのワイン用ぶどうを作るオーガニック農場で半年働き、帰国後、サバエシティホテルで2年間料理の修行をしたといいます。
『畝来』を始めてから、地域の人とのつながりも広がったという宮本さん。食で地元を盛り上げたいという共通の想いから、河野の旅館や民宿などの厨房に立つ仲間と完全予約制の『炊(かしき)の会』を開催。食後は仲間の営む宿で宿泊もでき、観光面での広がりも期待されています。
実は、船舶免許も持つ宮本さん。自分でとった鮮魚をさばき、全国にネット通販できるよう現在準備中です。他にも、福井のワインカレッジ一期生として福井産のワイン造りに関わるなど、豊かな自然に恵まれた環境の中で「やりたいことはけっこうありますね」と笑顔がこぼれます。