征夷大将軍の平和への願いが詰まった寺。
平安時代の勅撰国史書「続日本紀」にも登場する小浜市松永地区は、豊かな自然の中で長い歴史を紡いできた地域。多くの文化遺産にも恵まれているこの地区で、「福井県で唯一の国宝建造物」として地域の誇りとなっているのが「明通寺」です。国宝に指定されているのは、本堂と三重塔。他にも多くの重要文化財を有しています。
この明通寺を創建したのは、坂上田村麻呂。歴史の教科書でお馴染みの征夷大将軍ですが、敵味方の区別なく蝦夷征討による犠牲者の鎮魂のために、若狭にお寺を創建していたと知っている人は少ないのではないでしょうか。
山の麓に抱かれた国宝を目の当たりにしてもなお、「何故ここに建てたのだろう」と疑問は消えないかもしれません。そんな時はぜひ振り返って、里の景色に目を向けてみましょう。戦いに明け暮れた武将が、この場所に求めた平穏が垣間見えるはずです。
重要文化財が伝える、いつの時代も変わらぬ願い。
国宝である本堂に収められているのは、薬師如来、降三世明王、深沙大将の3尊。いずれも国の重要文化財です。ご本尊である薬師如来が左手に携えている薬壺には、8万4千もの病を治す薬が入っていると言われており、この薬壺を模した無病息災守りは明通寺の一番人気となっています。
また本堂内にある寄進札(きしんふだ)も、ぜひご覧ください。国の重要文化財に指定されているこちらには、いつの時代に、どこに住む誰が、何を願い、どれほどの寄進を行ったのかが記録されています。約400枚もの札が今に残っており、最古のもので何と延慶2(1309)年の銘が記されているというから驚きです。時代と共に移り変わる木札の形状や書式にも注目しながら、当時の世相の一端に触れてみてください。長年にわたって人々の心と生活に密着した祈祷寺であった証とも言えるでしょう。
五感を超えたその先に、もう一つの世界。
かつてお寺は人が集う代表的な場所でした。しかし時代の変化とともに、その在り方も随分と変わってきました。「本来、生活の延長線上にあったお寺ですが、今や非日常を体験する場所となりました。ここでは俗世を忘れ、心穏やかに自然のあるがままをご体感ください」と中嶌一心副住職。「現代は、味覚にしても嗅覚にしても聴覚にしても、過剰な刺激に晒されています。そういうものからちょっと離れて、五感を研ぎ澄まして心穏やかにお過ごしいただければ」。その言葉通り、ここではほんのひと時の静寂に身を委ねるだけでも心身が浄められていくのが分かります。
そして、より深くこの土地が持つ力や魅力の神髄に触れたいと感じた時には、明通寺より徒歩圏内に位置する宿「松永六感藤屋」をご利用ください。五感を整え、自分と向き合うこのプログラムに於いて、明通寺では「阿字観」と呼ばれる瞑想体験が出来ます。忘れていた、気付かなかった“何か”に触れるマインドフルネスなひと時をお過ごしください。