味・色・形を組み合わせ、素材の美味しさを引き出す。
敦賀市郊外の閑静な住宅街に佇む『Home Sweet Home』。ショーケースには、イチゴのショートケーキや上質なバターケーキ、季節のオリジナルケーキなどが並び、レモンケーキやフィナンシェ、クッキーなどの多彩な焼き菓子が棚を埋め尽くします。
「『Home Sweet Home』は、家庭で作れる素朴で懐かしいお菓子がほとんど。奇をてらったものではなく、『普通』を大事にしています」とオーナーの大谷亮子さんは語ります。丁寧に焼き上げられた定番のケーキや焼き菓子は、シンプルだからこそ素材や菓子職人の腕の良さが際立ちます。
大谷さんは「『普通』の中にもハッとするようなものがほしい」と、旬にこだわりここにしかない季節限定のケーキを創作。オリジナルレシピの冬期限定「いちごとピスタチオのパイ」は、濃厚なピスタチオクリームやイチゴの酸味、それに負けない重厚なパイ生地のバランスが絶妙で「みんな大好き」とほほ笑みます。
春はイチゴ、夏はスイカやレモンや桃、秋は梨、栗、ブドウ、冬はナッツ、早春にはフキノトウと東浦みかんを使ったケーキも登場。味・色・形を組み合わせ、素材の美味しさを引き出しています。
手から手へ、心を込めたお菓子づくりに向き合って。
「子どもにおやつを作るような気持ちで、お菓子に向き合いたい。『手から手へ』を社是に、大切な人に温かい想いを手渡すように、心を込めてお菓子を作っています」と想いを語る大谷さん。
大谷さんは5年間の保育士を経て、お菓子作りを我流でスタートしました。友人のカフェで置かせてもらったレアチーズケーキが評判を呼び、1987年に自宅で『Home Sweet Home』を開店。1995年、現在の場所に移転します。
その間、藤野真紀子さんや加藤千恵さんの菓子教室に通い家庭菓子を、京都の名店『オ・グルニエ・ドール』でオーナーパティシエを務めた西原金蔵さんのもとでは、お菓子の理論と基礎を学びました。
出場するフランスの伝統菓子『ガレット・デ・ロワ コンテスト』では、5回ファイナリストに選ばれている大谷さん。「折り込み生地とアーモンドクリームだけのシンプルなパイだけに難しい。自分が試されている感じで、1年間のモチベーションを保つお菓子です」と笑顔を見せます。
みんなの『Home』として、新しいアプローチも。
老若男女のお客さまがケーキや焼き菓子を求めに訪れ、カフェコーナーは顔なじみのお客さまで賑う『Home Sweet Home』。「ここはみんなが帰ってくる『Home』。長く通ってくださるお客さまも多く、定番のお菓子はレシピを触らず、これまでの味わいを大事にしています」と語ります。
「男性のお客さまもよく来られます」と言う大谷さん。なかでもローストしたマカダミアナッツをキャラメリゼし、チョコレートをまとわせた『ちょこっとナッツ』は大人気だそう。
「チョコレートを手作業で少しずつ入れていくので、手間や時間はかかりますが、香ばしく甘ったるくなくて、ひとくち頬張ると止まらなくなるお菓子ですね」。そう教えてくれたのは、娘婿のシェフ白波瀬純平さん。
純平さんは、京都や東京のイタリアンなどの経験を生かし、ハンバーガーやキッシュを提供するなど、お菓子に留まらない新しいアプローチを始めています。「数年後には、現在焼き菓子を担当している娘の双葉と純平さんに、お店を継承したいと思っています」と大谷さんは展望します。
親から子へ、変わらぬ美味しさと心温まる絆を渡す。
これまでのあゆみを振り返り、「みんなに育てていただいた」と穏やかに語る大谷さん。北陸新幹線延伸開業で市外や県外のお客さまも増えてきましたが、地元のお客さまとの交流を大切にしています。「小さい頃から来られているお客さまが結婚して家庭を持ち、子どもを連れてケーキを買いに来られることもあるんですよ」と、うれしいエピソードに笑みがこぼれます。
結婚や出産の内祝いなど贈答用にお菓子を求められることも多くなり、新しくオリジナルののし紙を制作しました。「デザインは娘に任せて、おしずさんというイラストレーターの方にお願いしました。模様のひとつひとつに意味があって、お客さまにもすごく喜ばれています」。
親から子へ、変わらぬ美味しさと心温まる絆を手渡し、新しい『Home Sweet Home』へつながっていきます。