塗師歴65年、「今でも楽しい。」
昭和16年に河和田町の木地職人の家に生まれた畠中昭一さん。お椀などの丸い器に漆を塗る「丸物塗師」の伝統工芸士です。中学を卒業後に塗師としての修行を始め、昭和42年に26歳の若さで独立。当時はどの工房も5〜10人の弟子を抱えていて、ある程度できるようになれば独立するのは当たり前のことだったそう。現在80歳の畠中さん。塗師になられて65年という経歴についても「河和田で生まれたら普通のこと」と言います。
これだけ続いたのは好きだったからだと思う、と畠中さん。「今でも楽しい。楽しくないと続けられない。イヤイヤやっていたらいい仕事はできない。」と言います。元々一つのことを極めるのが好きで、アユ釣りにハマったことも。「あれもこれもやりたいとは思う。でも自分に合うことは、1つか2つほど。」今も一日中作業場で仕事をしていても疲れないのだとか。
飴色が美しい古代朱(こだいしゅ)塗り。
塗りの工程には、まず木地に漆を染み込ませて強度をもたせる「木地固め」、木地固めの後麻布を貼って割れにくくする「布着せ」の【下地固め】、土からできた地の粉や砥の粉と生漆を混ぜた錆(さび)漆をへらで塗る「錆つけ」とそれをやすりで研ぐ「地砥ぎ」を繰り返す【下地塗り】、その後に刷毛で漆の吸収をとめる【中塗り】があり、最後に仕上げの【上塗り】という作業があります。どの工程にもそれぞれの難しさがあるそうです。
塗師の個性が一番出るのは仕上げの「上塗り」の部分。畠中さんが得意とするのは飴色がきれいな「古代朱(こだいしゅ)塗り」。独特の重厚な色味は、今や貴重となった日本産漆を混ぜた、畠中さん開発によるオリジナル。いい漆を使ったらどうなるか、やってみたかったというのがきっかけでした。
「これでいいというのはない。今も勉強。」
とても温厚で優しい雰囲気の畠中さんですが「職人気質で頑固。子供の頃は喋ったら怒られそうで、近づくのも怖かった」と話す長男の信也さん。現在は工房でほとんどの仕事を任されています。尊敬するところはと尋ねると「仕事がていねい。『昭一さんのところで塗った品物はきれい』と言われている。来た仕事は断らないし、歳をとっても挑戦し続けているところはすごいと思う」。
現在工房では、茨城県出身の仁平星奈さん(23歳)がお弟子さんとして修行しています。高校生の時に伝統工芸に興味を持ち、大学で伝統工芸を学び漆塗りを選んだのだそう。畠中さんの元で修行を始めてから現在5年目。今でも塗り上がったのを見られる時や自分が塗っているのを後ろから見られていると緊張するのだとか。
「この仕事はこれでいいというのはない。今も勉強。この歳になっても、若い子がやっているのを見て気づくこともある。」と畠中さん。新しい技法を見ておもしろさが見えることがある、と今も挑戦が続きます。