心を癒して五感を満たす、大人の行きつけ。
『小料理 にしばた』は大理石のカウンターが6席、個室が4室の、堅苦しすぎない和の造りが心地よい和食屋。2000年のオープン以来、“あまり人に教えたくない隠れ家”として高い人気を誇っています。
腕を振るうのは、奈良の老舗料亭旅館で10年間の修業を積んだご主人 西畑さん。手際が良いながらも穏やかな調理風景は、カウンター越しでも「美味しいものが提供される」という安心感に満ちています。そこに華を添えるのが、女将のひまわりのような笑顔。お二人が手掛ける季節の設えに癒される人も多いと見え、「うちは駅からちょっと遠いんですが、“飲みたいから”と電車で来られる方もいらっしゃいます」というご主人の言葉にも納得です。
インターネットや雑誌などへの露出が少ないにも関わらず、足繁く通うファンの心を捉えて離さないのは、ご主人や女将の人柄に加え、奥行きのある味わい、随所に感じられるもてなしの心など、尽きることのない魅力に溢れているからなのです。
基本が盤石だからこそ生きる、味わいへの挑戦。
『にしばた』で提供される料理は、茶懐石の流れを組むコース料理。約10品のお任せ料理が、希望や予算(5,000円~)に合わせて楽しめます。
「私は和食の基本や型を守っていれば和食になると考えているので、捉われ過ぎることなく面白いと思った食材は何でも挑戦しますし、お客さんもそれを分かって受け入れてくれています」と話すご主人が作り出す料理は、見た目にも味わいにも透明感と奥行きが感じられ、心と体にすぅっと沁み込んでいくのが分かります。
「調味料は、修行時代から慣れ親しんだクセや主張の少ないものを使っています。味噌や酢などは京都の物を使っていますが、その方が素材の味が引き出しやすいんです」との言葉からも分かる通り、和の基本を忠実に守っているからこそ生み出される心地よさなのでしょう。
「とにかくお客さんが楽しんでくださることが一番」だと繰り返すご主人。それは、お酒のペアリングにも通じているようで、「うちは福井の地酒を中心にビールやワインまで置いていますが、ご自身が一番心地良く感じる組み合わせで楽しんでいただければ」と続けます。人の味覚は千差万別。季節をまとった料理の数々を自分なりにグレードアップさせるペアリングを見つけるのもまた、楽しみの一つといえるでしょう。
いつの時代も変わらない本質。
「私も若い頃は熟練の職人達が話していることを“古いなぁ”と思って聞いていたんですが、オープンから20年以上が経ち、年を重ねるにつれて意味が分かるようになり、その職人達と同じようなことを言うようになってきました。今の人達から見れば古いと思われるんでしょうが、きっと変わらないもの、伝えていくものがあるんでしょうね」とご主人は笑います。
そのご主人が立つ調理場から真正面に見えるのは、東大寺の別当(住職)がしたためたという『華』の文字。隅には“持つ人に幸せが訪れる”という散華が一緒に額装され、女将も「文字通り、来てくださったお客様のひと時が華やぎに満ちたものになれば」と心遣いを覗かせます。月ごとに移ろう味わいと風情、ここにしかないひと時をごゆるりとご堪能ください。