現代の暮らしにとけ込む和紙を、全国、そして世界へ。
福井県越前市にある旧今立エリアは、約1500年の歴史を受け継ぐ、越前和紙の里です。全国の和紙の産地の中でも、品質・種類・量ともに1位を誇り、日本三大和紙に数えられています。今も多くの製紙所がある今立地区、紙漉きの神さまをまつる岡太・大瀧神社の参道に工房を構え、手漉き和紙の製造を行なっている『栁瀨良三製紙所』。光りが透けるほど薄くて柔らかな手ざわりの「薄紙楮紙(うすがみこうぞし)」をメインに、ニーズに合わせてさまざまな紙を漉いています。
作業場で和紙をつくり続けているのは、伝統工芸士、三代目・柳瀬京子さんやご主人の靖博さん、女性の職人さんたち。「私が就職活動をしていた時期は、バブル全盛期で仕事も選べた時代でした。自分にはOLは向いているとは思えず、ものづくりする仕事の方が性に合っている気がしました。実家が紙漉きの工房だったので、‟やってみたい!“と親に言ってみたら、‟やってみろ”と。18歳でこの世界に飛び込みました。やりだしたら、楽しくって。このまま家業を継ぎ、手漉き和紙職人の道を極めることにしました」と京子さん。
学生たちとの交流で復活した、「金型落水紙」。
こちらの紙は、薄いだけではなく、丈夫でやぶれにくいという特徴も兼ね備えており、障子紙や襖紙、包装紙、お菓子のパッケージなど、さまざまな用途で使用されています。なかでも、『栁瀨良三製紙所』の京子さんにしか漉けない特別な和紙があります。
光と影が織り成す、まるでレースのような文様が美しい「金型落水紙(かながたらくすいし)」です。この和紙は、漉き上がった乾く前の生地に金型をかぶせ、シャワー状の水滴をかけて模様を写しとるという独特の技法で生まれます。昔はよく製造されていましたが、手間やお金がかかることから、手がける製紙所が徐々に減っていきました。こちらの工房でも、祖父の良三さんが使っていた古い金型が倉庫に置いてあったくらいで、業務用としては40年以上やっていなかったそう。
それがなぜ、現代へとよみがえったのか。それは、7年前に遡ります。東京の『昭和女子大学』のプロダクトデザインコースの学生が、和紙の現場で10日間寝泊りしながら、新しい商品をつくるという初めての取り組みが行なわれました。滞在する学生たちにいろんな紙を見てもらいながら、プロジェクトを進めていくうち、「この和紙自体が商品なのでは?」という話になり、倉庫で眠っていたこの金型をもう1度使ってみることに。
紙漉き職人とお客様をつなぐ、交流拠点に。
製紙所には、ガレージを改装して誕生した直営店『RYOZO』も併設。さまざまなアイテムを直接、見て、ふれて、購入することができます。店内には、さまざまな表情の「金型落水紙」がディスプレイ。窓ガラスにはったり、リビングに飾ってインテリアとして楽しんだり、さまざまな和紙のある暮らしの魅力を発信しています。また、香川県丸亀市のうちわ職人とのコラボレーションで生まれた、金型落水紙を使ったオリジナルうちわ「落水団扇」はじめ、『五十嵐製紙』や『やなせ和紙』、『石川製紙』といった近隣の工房の紙、地元の作家さんによる和紙アイテムなども取り扱っています。
ショップと工房はつながっているので、希望者には職人の作業風景を間近で見ることができる工房見学や、紙漉きの体験も。「見学に来られたお客様に‟すごい!“と言っていただけると、とてもうれしく、自信にもつながります。お客様との交流が職人たちの励みになっているんですよ」と靖博さん。「当工房には、紙漉きインストラクターもいるので、ゆくゆくは滞在型で体験できる場所をつくって和紙ファンを開拓していきたいですね。これからも伝統を守りながら、現代のライフスタイルにとけこんでいけるような和紙づくりを続けていきます。」