すべきことは、微生物が働きやすい環境作り。
明治32(1899)年創業の『ヤマギクしょうゆ 山元菊丸商店』は、福井の豊かな自然に囲まれながら120年以上にわたって天然醸造を続けてきた醤油蔵元。“ヤマギク”の愛称で福井市民に親しまれてきました。4代目の山元裕次さんは、「当蔵の2本柱は、地元の人達に愛されてきた“福井の味”と、うちならではの風味を醸す“ヤマギクの味”です。北陸は魚介類をよく食べる地域ということもあって甘めの醤油が好まれるので、『かけしょうゆ』『菊印しょうゆ』を“福井の味”としてお勧めしています。一方でヤマギクの伝統と技を凝縮させたものは『天然醸造しょうゆ』『本醸造しょうゆ』としてお出ししています」と話します。
天然醸造のもろみは、格別な旨味とコクの深さを併せ持ちます。しかし微生物の存在なくしては、この味わいを生み出すことはできません。「これだけ技術の発達した現代においても、発酵って人間には絶対にできないんですよ」と山元さん。微生物が最善の仕事ができるように環境を整えることが、人間のすべきこと。味わいの深さは自然の奥深さなのだと、改めて知らされます。
蔵付き酵母だけが醸せる、特別な味わい。
1年の時間をかけて天然醸造で仕上げられるヤマギクの醤油は深くしっかりした味わいが印象的ですが、その上を行くのが2年の歳月をかけて造られる『天醤(てんしょう)』です。香りと塩味のあとに追いかけてくる甘味がまろやかな口当たりを生み、コクの深さと相まって心地よい余韻を楽しませてくれます。山元さんも「調味料・甘味料は使用せず、天然素材にこだわった一品です。保存料も使っていないので、体に気を遣う方にもお勧めです」と自信を覗かせます。いつもの味を格段にランクアップさせてくれるので、お刺身や冷ややっこなど素材を生かしたいお料理にお試しください。
また、忙しい現代人にお勧めなのが『ないしょだし』。1年熟成の本醸造醤油の香りを生かしながら、カツオや昆布など魚介の旨味をプラスした“醤油蔵元が作る”出汁つゆです。ほんのり甘さを感じる出汁つゆは、煮びたしや角煮といった和食をはじめ、ポトフやパスタなどの洋風料理、チャーハンや酢豚などの中華料理まで幅広く使える、まさに万能調味料。共働きが多いという福井の地域性や現代のニーズから生まれた便利な一本は、ぜひ常備しておきたいものです。
地元の味を知って、長く愛してほしいから。
こちらでは『醤油しぼり体験』もできます。福井県産の丸大豆・小麦・塩を使った天然醸造もろみをハンドジューサーで絞った後にフィルターにかけて濾し、仕上げにかつおや昆布、椎茸のだしをお好みで加えたら出来上がり!自分でラベルを描いて貼れば、世界に一つだけのオリジナル醤油の完成です。山元さんも「特に小さいお子さんは一生懸命描いて、嬉しそうに持って帰られますね」と優しく笑います。
調味料は日々の食卓に欠かせないものであり、食育の土台にもなるものです。「時代の流れの中で“味を守る”って、意外と大変なんです。でも土地に育てられ、土地の食卓に寄り添ってきたものだから、各所での出前講座などを通して福井の食文化や味を後世に伝えていけたらと思っています」。深化し続ける老舗の味わいに、期待は深まるばかりです。