本場ナポリの味を福井へ。小田原シェフの挑戦。
湊町・三国の静かな住宅街に、県内外からピッツァ好きが集まるピッツェリアがあります。その名も『バードランド』。ジャズを愛するオーナーシェフ・小田原学さんが、お気に入りの楽曲を店の名前に選び、1989 年にオープンしました。
当時は軽食と珈琲を提供する喫茶室でしたが、ある時、ナポリのとあるお店で初めて本場のナポリピッツァを食べて衝撃を受けます。一瞬でその美味しさの虜になった小田原さんは「この美味しいピッツァを自分も焼けるようになりたい!」と強く思うようになったのだそうです。
小田原シェフの情熱が実を結び、「ナポリピッツァ協会」認定店に。
「本当のピッツァは、ナポリに行かないとわからない」と、一念発起。1997 年、ついに憧れの地・イタリアナポリへ、ピッツァ修業に出発。当時500軒以上のピッツェリアがあったナポリでも美味しいと評判の名店『オ・カラマーロ』、『アッドゥ・ガイヨーラ』の2軒に毎年通い、6年に渡り一流のピッツァイオーロ(ピッツァ職人)のもとで腕を磨きました。
「ピッツァの知識がない初心者の私にとって、毎日がとても刺激的でした。その道のプロであるマエストロたちの調理技術、焼きあがったピッツァの味は驚きの連続。そして何よりも彼らのピッツァに対する熱い想いに感動しましたね。彼らに認められるだけの技術と味を習得するため、必死に勉強を重ねました」と、当時を振り返る小田原シェフ。
帰国後すぐに店でも窯をつくり、現地の味を再現しようと生地づくりから焼き加減など、試行錯誤する日々。イタリア産の石臼で挽いた小麦粉を独自にブレンドし、塩はイタリアのシチリア島の塩を、ソースのトマトはカンパーニャ州のトマトを使用。モッツァレラチーズは岡山県の「吉田牧場」より、水牛のチーズだけはナポリから仕入れているというこだわりよう。そのあくなき探求心、ピッツァへの情熱が認められ、2002年、ナポリ本拠の「真のナポリピッツァ協会」の認定店に選ばれました。
お目当ては断然、ピッツァイオーロ自慢の「マルゲリータ」。
ここ『バードランド』に訪れるお客さんの多くがオーダーするのが、名物の「マルゲリータ」。窯焼きならではの外側はサクッ、モッチリとした食感。「生地そのものを味わう」ことに重きを置いた、小田原シェフが焼き上げるナポリピッツァは、その生地の旨みや香り、食感は格別で、食べ応えも十分。ピッツァ用のナイフとフォークで食べる、イタリア式の食べ方もなんだか新鮮で、現地のピッツェリアにいるような気分に。
「ピッツァは、すべて手作業なんです。生地をのばすのも、焼くのも全部手作業で、職人の感覚によるもの。生地の材料も、水・小麦粉・塩・イーストのみ。それを手でのばし、薪窯で焼く。材料も、工程も、シンプルだからこそ、職人の腕が試される。どれが外れてもナポリピッツァではなくなるんです。アナログだけれど、それが面白くってね」。
店内では、定番の「マルゲリータ」や「ポルチーニ茸」だけでなく、カニシーズンだけの「グランキオ(せいこがにのピッツァ)」など、福井の旬の食材を贅沢に使用した季節限定のプレミアムなピッツァも登場するそう。ほかにも、甘エビなど三国でとれた新鮮な魚介をはじめ、肉や野菜など、窯でじっくりとグリルした薪窯料理もワインが進むと評判です。
ゆるりと時を刻む、木の温もりあふれる大人の食空間で、大切な人とたのしく“美味しい時間”をシェアしてみたり、窯の側に立つ小田原シェフの流れるような手仕事を見ながら、遠く離れたイタリア、ナポリに思いを馳せる時間を過ごしてみては。