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美めぐりふくい

山岸和紙店

ストーリーをまとう和紙は、雄弁な語り部になる

area:鯖江・越前たけふ
  • 伝統・工芸
information

山岸和紙店
福井県越前市定友町23−7−1(地図
TEL: 0778-43-0308
営業時間/9:00~18:00
定休日/土曜日、日曜日、祝日
HP/https://washism.com/

credit
写真:出地 瑠以(cocoon)

最終更新日 : 2024年9月9日

個性と特徴を知り尽くした、和紙専門の橋渡し役。

全国に50カ所以上ある和紙の産地の中でも、1,500年という長い歴史を誇る越前市今立地区。越前市東部に位置する今立地区では大小60以上もの紙漉き工房が軒を連ね、高い技術で漉き続けられてきた「越前和紙」は日本三大和紙の一つに数えられています。

そんな和紙の名産地にある「山岸和紙店」。主に紙漉き工房から仕入れた和紙の小売りや卸を行う、いわゆる“産地問屋”です。「簡単に言うと、うちは和紙のセレクトショップですね。今立地区だけで約20工房の和紙を扱っています」と3代目社長の山岸大祐さん。ひと口に和紙と言っても膨大な種類があるうえ、工房や漉き手によって個性も異なるので、越前和紙の中でも求める一枚に出合うのは簡単ではありません。

そこで頼りになるのが、それぞれの特性を熟知している和紙専門の産地問屋。「もともと越前和紙はふすま紙のような大紙を得意としてきたので、表具屋や工務店といった業者さんとのお付き合いがメインでしたが、最近は美術小間紙を使った便せんやハガキ、小物を求める個人のお客様が増えてきました」。時代が移り、ユーザーが変わっても、シーンやニーズに応じた一枚と出合うためには山岸さんのような橋渡し役が不可欠なのです。

もっと気軽に使ってほしい。目指すは“普段使いの日本文化”。

越前和紙の品質の良さは誰もが認める所ですが、「どんなアイテムに使われているの?」という問いに答えられるのは福井人でも少数派かもしれません。実は山岸さんも、かつて答えに窮した一人でした。「広く個人のお客様にも手に取っていただこうというのにこれではいけないと、2017年に祖父である創業者の名前を冠したブランド“Sogoro(そうごろう)”を立ち上げ、普段使いできるアイテムを作り始めました」と振り返ります。

事務所に併設されたショップに並ぶのは、オリジナルのデザインが人気の懐紙やメッセージカード、様々な色・柄の和紙がセットになった「カミノカケラ」など、すぐにでも使いたくなるアイテムの数々。「季節などによってデザインが変わる懐紙には、既にファンがついているほど。お化粧直しやラッピング、メモ紙としても使えますし、最近だとアルコールを吹きかけて除菌シートとしてといった使い方もご提案しています」。この懐紙のデザインは専務であり実弟でもある保喜さんが社内デザイナーとして担当しており、お気に入りの模様を取り込んでオリジナル懐紙を制作することも可能。優しい色合いとタッチですんなりと日常に溶け込むので、ノベルティとして人気が高いというのも納得です。

また店内で目を引くのが、正月飾りとフラワーボックス。こちらは福井市の造花専門店と共同で立ち上げたブランド“fuwara(福和来)”の商品。“福井・幸福”“和紙・平和”が“来ますように”という願いを込めたブランド名は“ふくはくる”とも読めます。「真っ先に手掛けたのが正月飾りだったんですが、その理由がここ今立地区は全国でも珍しい紙の神様・川上御前をお祀りしている和紙の産地なので、『紙の神が宿る和紙を使った日本一縁起のいい正月飾りです!』ってやりたかったからなんです」と山岸さんは笑います。越前和紙をはじめ水引も越前市で作られたものを使っている“オールメイドイン福井”の手作り飾りは、リースとしても楽しめる“温故創新”な一品です。

未来を紡ぐ伝統工芸品。

2,000種類をも扱うという「山岸和紙店」。和紙だけでそれほどの種類があることも驚きですが、微妙なスペックの違いをすべて頭に入れているというから更に驚きです。「和紙にも産地ごとに特色や特性、得手・不得手があり、それは越前和紙にも当てはまります。お客様が和紙に求めるものはお客様の数だけあり、それらに応えるためには越前和紙だけでは難しい面もあるので、必要に応じて全国の和紙からもご提案しています」と山岸さん。印刷にかけるのか手書きなのか。手書きなら筆記具は何を使うのか。耐久年数はどれ程を想定しているのか。ニーズに合わせた個別の提案は、長年の蓄積あってこそ可能になるのです。

様々な伝統工芸において新しい試みが行われていますが、和紙の世界も例外ではありません。「例えば茶葉を漉き込んだ和紙。茶葉なので時間が経てば香りも色合いも当然変化するんですが、それだけでストーリーを感じますよね。更にお茶屋さんが自分のお店の茶葉でオリジナルの和紙を作って、ラベルに仕立てたら……もう、どんどんストーリーが膨らむじゃないですか。そういう所を入口にして、奥深い和紙の世界に興味を持っていただけたら嬉しいですね」。まだまだ多くの可能性を秘め、無限の想いを繋ぐ役割を担う伝統工芸品・和紙。漉き手が込める想いに寄り添いながら、その可能性を広く発信し続けていきます。

information

山岸和紙店
福井県越前市定友町23−7−1(地図
TEL: 0778-43-0308
営業時間/9:00~18:00
定休日/土曜日、日曜日、祝日
HP/https://washism.com/

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写真:出地 瑠以(cocoon)