「非日常」を提供し続けるために。
福井で美味しいフレンチレストランといえば、すぐに名前が挙がる『Soin(ソワン)』。大阪や福井の名立たる店で修業を重ねた実力派シェフ小林也州雄さんが腕を振るうレストランです。
料理において旬を取り入れることは、今やスタンダードとなりました。四季折々の食材が年によって大きく変わることはありませんが、『ソワン』で前年と同じ仕上がりの料理が登場することもありません。「自分にとって、その料理はその時が完成形なんだと思います。だから、時間が経って同じものを作ると何か違和感を覚えてしまう。少しずつ変わっていくものを皿の上に表現できるよう、常に感性を研ぎ澄ませています」と話す小林シェフは、新しいレシピが浮かぶと材料や手順、味はもちろん、仕上がりのデッサンまで手書きでノートに記しています。この積み重ねが、たゆまぬ味の進化を実現させているのです。
風土に適したフレンチ。
小林さんの生み出す味わいには常に驚きや発見が潜んでいますが、初めての出合いにありがちな戸惑いはあまり感じません。もちろん、それも小林さんの気遣いと信念があってこそ。「フレンチと言っても、使うのは本場の水や食材ばかりではなく福井県産が中心となりますから、福井の風土に適した仕上がりになるのは自然なことです。それに食べていただくのは日本の方・福井の方。舌に馴染む要素があるからこそ、長く愛していただいているんだと思います」。食べる人の背景にまで思いを巡らせ、和食の技法や食材の使い方なども取り入れることで、“ここでしか味わえない”フレンチが誕生するのです。
そんな小林さんが目指すのは“味の最大化”。「何を食べているのか、ちゃんと分かる料理を提供したいんです。なので盛り付けや飾りつけは極力シンプルにして、素材の味わいをいかに深めるかに全力を注いでいます」。生産者の方たちが懸命に育て上げた食材には“ストーリー”があり、それを私たち消費者に繋いでくれているのがシェフです。上質な味わいに昇華させた“ストーリー”は、丁寧に紐解きたくなる優しさと力強さに満ちています。
豊かなひと時を作りたいから、豊かな環境を大切にしたい。
「ゆったりした時間・環境で食べる料理が格別であるように、ゆったりと作られた料理は味わいが違うと思うんです」と小林シェフ。野菜こそ鮮度が命だと、生産者の元へ自ら足を運んで信頼のおける素材を仕入れ、デニッシュ生地のキューブパンを店内で焼き上げる。細部に至るまで丁寧に準備された料理と空間が、私達に豊かな時間をもたらしてくれるのはごく自然なことなのかもしれません。しかし、それはシェフという食の総合プロデューサーがいなければ成り立たないのだと、小林さんの振る舞いは気付かせてくれます。
“食べる”という体験を一段階も二段階も上のものにしてくれる『ソワン』。今日も繰り広げられる皿の上の挑戦を確かめに、ぜひ訪れてみてください。